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ストックホルム症候群か否か

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕が本当に愛してしまった彼、恐怖で彼を暗示にかけるのは簡単だ。
けれどそれが解けたら?彼があの時の彼女の様になってしまったら?裏切られたら?
捕まるより僕は恐怖する。
だから、だから、せめて優しく殺してあげよう…笑って口付けて…

 

 

指切のジャック再来のバレンタインから二年が過ぎた。
僕はあの日直ぐに椰代くんのお父さん…漆原医院長を脅して新しい戸籍を用意させた。
息子の事で掴みかかられて動揺していたけれど、
明枝くんが集めていた医療ミスの資料を見せたらコロリと態度を代えて、
新しい戸籍と口止め料としてお金を渡された。

 

人間の本当の顔は好きだけど、これは好きになれないなぁ…なんて思いつつ、
僕は新しい戸籍と膨大なお金で郊外のマンションに一室部屋を借りた。
本当は買っても良いのだけれど、もし何らかの事があって、
逃げなきゃ行けなくなったら物は少ない方がイイ、なのに何故だろう…

 


頬をなぜる風は刃の様に冷たい、僕は急いでアパートの部屋の鍵を開けた。

 

 

「お帰りなさい」

 

「えっと…ただいま」

 

本当はさっさと殺してしまっておいた方がイイのに、逃げる時に一番邪魔になりそうなのに、

裏切られるのが怖いのに…
彼を…明枝くんを2年前に殺せなかった。
殺す為の手斧は彼の肩に刺さったけれど、人殺しをしながらちゃっかりと医免許なんて取っていた僕は、
屋敷に設置した時限放火機で屋敷ごと彼が燃えてしまう前に彼を連れて手当てして…
2人分の新しい戸籍を用意させて、彼と同棲なんかしちゃっている。

 

「今日は餃子鍋にしましたよ」

 

「運ぶから明枝くんは座ってなよ。暖房つけてて」

 

「はい」

 


…正確には初めは監視だった、次に興味だった。
今でもあの時と同じ質問をすると「憎い」「怖い」と帰ってくる。
けれども直ぐ後に「だけど傍に居たい」と顔を真っ赤にして僕の服の裾を握ってくる。
だから、監視、興味、今は…やっぱり明枝くんが好きだからとしか言えないのだろう。


平穏に暮らしたい、同じくらい人の深い場所にある本音を見てみたかった。

けれど後者は彼といる間は永遠に湧いてこないだろう。
平穏に暮らしたい、明枝くんの事を彼が嫌がらない範囲で探りたい。

 


「壇さん?お箸止まってますけど…美味しくなかったですか?」

 

「ん?考え事~、お鍋は美味しいよ。でも芯の部分はもっと早く煮ようね」

 

「うぅ…」

 

「明日は仕事休みだから一緒に料理作ろうか?」

 

「はいっ!!あ!お菓子も作ってみたいです」

 

「じゃあ、本屋にも行かなきゃね。久しぶりにデートだね」

 

「!?そ、外では手繋ぎませんよ」

 

「んふふ、賭けしようか。僕は繋ぐに」

 

「つ、繋ぎません!に一票です」

 

 

誰もが望む平穏な暮らし
あの時君が涙を一筋流し

 

「ぼくも、好きです」

 

なんて言わなきゃ起こらなかった平穏、仮初めかも知れないけれど。

この平穏が続くなら…僕の心に、後悔と言うものも生まれるのだろうか?
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

猫時計様より頂きました!(pixivより)

 

St.バレンタインナイトメアの二次SSです
BL成分あります。
その他注意は1P目にて

※1/28本文少し手直し・妄想のオマケ追加

閲覧有り難うございます!

 

 

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